「歯内療法」について(1)

虫歯が深くなり、歯の神経まで達していても比較的浅い範囲であれば虫歯の細菌に感染した部分だけを取り除き、感染していない部分の神経は保存する断髄法という治療をすれば神経を全部取り除かなくても済むことがあります。

しかし、神経の広い範囲が細菌に感染してしまうと強い痛みが発生し、神経を全て取り除かなくてはならなくなります。この場合、歯の根の中に通っている神経を綺麗に全部取り除き、最後は根の先の隅々まで消毒の薬で埋め尽くさなければなりません。

しかし、この神経を取り除いて薬を詰めるという作業が上手くできていないと結局細菌が残ってしまい、根の先を越えて骨の部分にまで炎症が波及してしまい、痛くて咬めなくなったり膿を貯めて歯茎が腫れたりしてしまいます。

痛くて咬めないとの事で当院を受診された患者様のレントゲン写真です。
(※記事内にあるレントゲン写真は患者様の承諾を得て掲載しております)

他の歯科医院で神経を取り除き、銀歯を装着されていました。根の中に見える白い線が神経を取り除いた後に詰めてある薬ですが、根の先まできちんと薬が詰まっていないために細菌が残り、根の先の周囲の骨に炎症が起きていました。矢印の黒い部分がそれです。

当院にて詰めてあった銀歯を外して根の先までしっかり掃除し、消毒の薬を詰める処置を行った時のレントゲン写真です。

根の先の隅々まで薬が入っています。その後の経過は良好で、当院にて銀歯を装着しました。

それから6ヶ月以上経過後のレントゲン写真です。

根の先の黒い影が消えており、炎症が改善されています。

神経を取り除く治療は、実は世の中で考えられている程簡単ではないのです。根の中を走っている神経は真っすぐではなく、曲がっていたりねじれていたり、複雑な走り方をしています。ファイルと呼ばれる金属製の器具を根の先まで挿入しないと神経を全て取り除くことができませんが、この根の先まで挿入するという作業が実は意外に難しいのです。

ファイルは真っすぐな形状をしているため、適度な柔軟性を有してはいるものの、曲がっていたり複雑な走り方をしている根管(神経を入れた空洞)には入りにくいので、これを

攻略するにはまさに歯科医師の技術力、経験が必要となってきます。

難しい症例では神経をきちんと取り除くのに時間がかかる事もしばしばです。

しかし最も重要なのは根の先まで薬を入れた際、薬がきちんと入っているかレントゲンで確認する事です。

当院では根の先まで薬を詰めた6ヶ月以上後に、患者様の同意を得てレントゲンを撮らせていただく事も多いです。

根の先の炎症の黒い影が消えていれば治療は成功したといえますし、患者様と一緒に確認をする事が可能だからです。

歯内療法はまさに、歯科医師の技術力がはっきりと表れやすい治療だといえます。

歯内療法が上手くいっておらず、根の先に炎症が起き痛くなったら、その上にどれだけセラミックなどの綺麗な歯を入れても外して治療しなければならず、意味がありません。

また、根の先に炎症が起きるのは神経の治療が終了して数年以上経ってからです。それまでは痛くも何ともないので、患者様としては「もう治った」と思ってしまいますよね。

それで再治療になってしまうのは本当に悲しい事だと思いますし、それを回避するには最初の時点の神経の治療を確実に行っておく事が重要です。

今後も歯内療法についての症例、治療方法について取り上げていきたいと思っています。