歯内療法について(2)

フィステルを伴う症例

歯の付近の歯茎にプクッとニキビのような膨らみが出現する事があります。基本痛みなどの症状が無く、歯科医院で歯科医師から指摘されその存在に初めて気付く患者様も多くいらっしゃいます。

写真1

これはフィステル(瘻孔)と呼ばれるもので、何らかの原因で溜まった膿が行き場を求めることにより形成された膿の出口の事を指します(白い矢印)。指で上から圧迫を加えると黄色い膿が出てくることもあります。

膿が溜まりフィステルが形成される原因は主に以下の5つです。

フィステルができる原因 

1・精度の低い歯内療法

歯内療法について(1)をお読みいただいた方にはお分かりだとは思いますが、むし歯が深くなり歯の根の中に通っている神経がむし歯の細菌で汚染されてしまうと、神経をきちんと取り除いてできた隙間を、消毒の薬で埋め尽くさなくてはいけませんが、この薬が根の先まできちんと詰まっていないと根の中に細菌が残り、根の先に膿が溜まります。

2・むし歯が深くなり神経まで達した事による歯髄壊死。

むし歯が深くなり神経まで達し、痛みを感じた時があるも歯科で治療を受けなかったり、もしくは全く痛みを感じないまま神経が全て死んでしまった結果、根の中の細菌により根の先に膿が溜まります。

3・歯根破折

歯の内部には神経だけでなく血管も通っています。神経を取り除かれた歯は神経だけでなく血管も取り除かれているので、血管を通じて得られる栄養の供給量が不足しており脆く、咬み合わせの圧力に耐えかねて歯の根が折れてしまうことがあります。その根の割れ目に細菌が繁殖し膿が溜まります。

4・外傷

転倒したり運動中に歯を打撲すると歯の神経がダメージを受け神経が死んでしまい、細菌に感染し根の先に膿が溜まります。

5・歯周病

歯の周りに付着した歯垢、歯石などの汚れが放出する毒素により、歯を支えてくれている骨が溶かされた部分に膿が溜まります。

実はこのフィステル、痛みが無いからといって放置していると、結構厄介な事になります。

フィステルは自然に消失し、また姿を現わしたりを繰返す性質があります。

フィステルが形成されているうちは膿の出口が開いているので痛みは出ませんが、この膿の出口が塞がり、尚且つ疲労などで身体の抵抗力が弱ったりした時に普段は弱い細菌の活動性が身体の抵抗力を上回ってしまい、歯の周囲の歯茎が広範囲に腫れを来してしまい強い痛みが発生する事があるのです。

痛みなどの症状が出ても早期に抗生物質を服用したり、根の先にファイルと呼ばれる器具を通して溜まった膿を排出する事により一旦は症状が治まりますが、歯茎の腫れが引かない場合は麻酔して歯茎を切開し膿を出さなくてはいけなくなる事もあります。

今回は私が治療を担当させて頂いた上の2のケースに該当する症例をご紹介します。

上の写真1は、フィステルの存在に気付いた患者様が当院を初めて受診された時のものです。特に痛みを自覚した事は無かったそうです。

(記事内にある画像は患者様の承諾を得て掲載しております)

フィステルの原因を調べるためにレントゲン撮影を行いました(写真2)。

写真2

金属製のブリッジと呼ばれる被せ物が入れられており、レントゲン上では白く写っています。手前の被せ物の下にむし歯の黒い影が写っています(青い矢印)。

このむし歯の細菌が根管(神経や血管を入れた空洞:根の中に見える黒い線)の中へと進行して神経が死んでしまい、根の先に膿が溜まっているのが黒い影になって見えます(黄色い矢印)。

この膿が行き場を求めてできた出口がフィステルです。

治療はまず削ってブリッジを外し、手前の歯のむし歯を取り除きます。この際、神経は死んでいて基本削っても痛くはないので麻酔は不要の事が多いですが、歯茎の腫れなどで痛みが強い場合は麻酔が必要になります。

死んでしまった神経をファイルと呼ばれる器具(写真3)を根管内に入れて取り除き、消毒の薬を根管内に入れる治療を何回かに分けて行います。

根管内の消毒が上手くいったら、根の先からフィステルまでの間に膿の通路(瘻管)が形成されているので、根管通過洗浄と呼ばれる方法で根管内から消毒液でよく洗い、膿の通路を通ってフィステルから消毒液が出てくるまで、汚いものを徹底的に洗い流します(図1)。

写真3
図1

この根管通過洗浄後に根の先~膿の通路~フィステルまでを消毒の薬で満たします(写真4)。

レントゲン上で白く写る消毒の薬が膿の通路を通り、フィステルから出てきているのがよく分かります(緑色の矢印)。

写真4

特に症状が無ければ永久的な薬を根の先まで隙間無く埋め尽くします(写真5)。

写真5

膿の通路を満たしていた消毒の薬は吸収性なので、身体の中に取り込まれ無くなります。消毒が上手くいっているのでこの頃にはフィステルは消失しています。

その後、患者様の希望通り、治療前に入っていたのと同じ形態のブリッジを装着しました。

数年後にレントゲンを撮影しました(写真6)。

写真6

治療前にあった根の先の黒い影が無くなり、健康な新生骨に置き換わり白く写っています。

尚、むし歯のあった部分と根は神経を取り除いて脆くなっているので金属の土台で補強しています(オレンジ色の矢印)。

今回ご紹介させて頂いたようなフィステルの症例はとても多いのですが、症状に乏しく発見が遅れやすいため、定期的に歯科を受診する事が望ましいと考えます。

今回ご紹介させて頂いた症例のように、むし歯がありながら特に痛みを自覚せず神経が死んでしまっていたり、口の中は目に見えない、知らない間に悪化しているケースが多々あるからです。

あと残念なのは、フィステルの原因の1のように、歯科医院で歯内療法を受けたにも関わらず上手くいっていないケースに結構多く遭遇します。

歯内療法について(1)でも述べさせて頂きましたように、最初に神経を取り除く時点で確実な治療が行われている事が大切なのですが、治療後のトラブルの可能性が少なからず存在しますので、「もう治った」ではなく、「きちんと治っているか」確認しようという意識を患者様任せではなく我々歯科医師が強く持たなければいけないと思います。