いじめ問題についてのエピソード

夏休み明けの9月1日前後は、小中高校生の子どもの登校拒否、自殺が一気に増えるといわれており、その大きな原因の一つがいじめと言われています。

将来あるはずの小中高校生が、いじめが原因で命を絶ったという悲しい報道に触れる度に「どうにか助けてあげられなかったのか」という気持ちになる方も多いと思います。

私は学校教育に携わっている者でもなく、いじめ撲滅のため特に何か活動をしているわけでもありません。なのでいじめ問題に関して、この場で私の個人的、且つ主観的なコメントをする事には抵抗がありますが、極力注意しながら書かせて頂きたいと思います。

いじめ問題について、ここで皆さんにご紹介したいエピソードがあるんです。

私が中学生の時だったんですが、一つ上の学年で酷いいじめが公然と行われていました。同じ校舎の同じ階、しかも私のいたクラスの隣の教室でした。

いじめの被害に遭っていたのはSさんという人で、いじめの内容について書く事には私自身迷いがあったのですが、ある時3,4人のいじめっ子が奇声を上げながら大量のチョークの粉をSさんの頭や机、椅子、床にかける等のいじめ行為をしていました。

周りにいた生徒達は皆、恥ずかしながら下級生だった私も怖くて硬直してしまい、いじめを止めさせる事はできずにいました。

するとそこへYさん、Hさん、Iさんの3人が現れました。

3人はチョークの粉で真っ白になったSさんの机、その周りを黙々と掃除し始めたんです。

3人は私が当時所属していた運動部の一つ上の先輩でした。先輩部員はその3人しかいなかったんですが、3人の先輩はとても仲が良く、優しかったので20人以上いる私達後輩部員からとても慕われていました。

最初に掃除をし始めたのはYさんで、「Yを一人にしてはおけない」という事で、HさんとIさんがそれに続くようになったらしいです。

ある時またいじめっ子達がいつものようにSさんの机にチョークの粉をかけました。

Sさんと同じクラスのYさんとHさんが掃除を始め、Hさんが口笛で合図をしました。

これに気付いた、一人だけクラスの違ったIさんが頭を搔きながらやって来ました。

Iさん:「わりぃ、わりぃ(笑)」

Hさん:「遅ぇよ(笑)」

心から笑える状況ではないのですが、見ていて微笑ましかったです。

Sさんもどんなに心強かったことでしょう。

「やめろよ」とか敢然と立ち向かうわけではなく、黙々とです。

この3人の先輩の行動に関して様々な意見はあるでしょうが、私は3人の先輩のとった行動は限りなくベストに近かったのではないかと思っています。

何故かというと、Yさん達は自分達が怒ったり、Sさんが困ったような顔をするといじめっ子達が余計に面白がっていじめ行為をエスカレートさせるというのをよく分かっていたのだと思うからです。

いじめっ子達がSさんの机を何回汚しても、何食わぬ顔で掃除する3人の先輩達。

さらに凄かったのは、汚される前よりもピカピカにきれいになってたんですよ!

これが効を奏し、先生方の素早い対応もあって、程なくいじめ行為は無くなり校内は落ち着きを取り戻していきました。

その後ある朝の全校朝礼で、3人の先輩は模範的な行動をとったということで表彰されたんです。

朝礼台に立つ3人の先輩の背中がとても眩しく見えました。

また、いじめっ子達はその様子をどんな思いで見つめていたのか・・・。

その後も3人の先輩は表彰された事などどこ吹く風で、いつでも自然体でした。

いじめ自殺などの悲しい報道がある度に3人の先輩の事を思い出します。

もし被害者の子の近くに3人の先輩がいてくれたら、自殺という選択をせずに済んだのではないかとか、考えてしまうんですよね。と同時に、当時何も行動に移すことができなかった自分の力不足を痛感してしまいます。

今自分が大人になってみて思うのは、いじめっ子達がいじめを始めるきっかけは色々あるのでしょうが、学校生活や友人関係、家庭環境などに不満があり日々が充実していない子の中のごく一部の子が、割と簡単にいじめを始めてしまうのではないかと思います。

しかしいじめっ子達にとって、いじめを止めるのは何故かまるで恥ずかしい事のように感じるのか、「止めるに止められない」という心理が働くのかもしれません。

家庭内の親子喧嘩や兄弟喧嘩でも、自分の方が悪いと分かっていても素直になれず、なかなか折れず口もきかない日々が長く続いたりする事があります。

それを悪質ないじめと同列に扱うのはおかしいですが、いじめの被害に遭っている子がどれだけ辛く苦しい思いをしているかという想像力に乏しいいじめっ子達にとってはそんな感覚なのかもしれません。

その後、ある時学校内で、Yさんといじめのリーダー格だった人が2人で話しているのを見た事がありました。

ちょっと心配だったんですが、Yさんもいじめのリーダー格だった人も、終始穏やかな笑みを浮かべながら話していました。

いじめのリーダー格だった人の本心は分かりませんし、行ったいじめ行為自体は絶対に許されないものです。

でももしかしたら、いじめ行為がいかに何の生産性も無い行為であるか、いじめを止める事は恥ずかしい事ではないという事に気付くきっかけを作ってくれたYさんに心の奥底では感謝していたのかもしれないな、とも思いました。

勿論いじめにも色んな形があり、時代と共にいじめの内容も変化してきているので、実際にいじめ問題の対応に当たられている方々に私の文章を読んで頂いたら、そんなに簡単な問題ではないとお叱りを受けるかもしれません。

しかし、Yさん、Hさん、Iさんの取った行動が、いじめ問題の対応についての一つのヒントになる可能性が僅かでもあるならと思い、僭越ながらこの文章を書かせて頂く事にいたしました。

Yさん、Hさん、Iさん、今頃どうされているでしょうか?まさかこんなところで自分達が話題になっているとは思っていらっしゃらないと思います。

でも、私にとってこの3人の先輩はいつまでもカッコイイ先輩なんですよ。

自分もカッコイイ男になりたいんですが(笑)、残念ながらYさん達には全然及びません。

Yさん達がこの記事を読んでくれている可能性は低いとは思いますが、正義感が強く、いつでも凛として自然体のYさん達のこと、今でも周囲の沢山の人達を幸せにしてくれているに違いないと思います。

私もYさん達に少しでも近づけるように精進します(笑)!